チャラい人間は嫌いだ。
どうあしらえばいいのかいまいちわからない。
こちらから殴りかかるわけにもいかない。正当防衛が主張できない。
ましてやナイフなんて出したら、その瞬間、たちまちこちらが加害者だ。
厄介だ。帰りたい。
三十六系逃げるにしかず とは言うものの、退路が塞がれてればそうもいえない。
前に3人。後ろに5人。8対1。負ける気はしない。
飛んでくの?飛び越えるの?出来なくも無いけど最低でも蹴り一撃は入るよ?

「というわけなんだけどさあ、カラオケ。いいでしょ?いこうよお」

めんどくさい。
助けてアンパン○ン。

「いや、私お兄さんたちに興味、無いんで他を当たってもらえませんか」
「ええ?なんでよぉいいじゃんよお」

あ、うざ。
イライラ。
やだなあこういうの。
伸していいかなあ。
殴っていいかなあ。
こういうときに出てくるヒーロー的な人間いないのかなあ。
正臣君とか。あ、でも彼女いるし、最近池袋にいないっていう話だし。
帝人君・・・助けに来てくれそうだけど、でも助けに来て代わりに殴られちゃいそうだから、来ないでください彼の安全のために。


「いいよぉ悩んでもーまあ最終的には来てもらうけどおー」


ゲラゲラゲラ。
うるさいなあ。
うーん、セルティが出てきたら大騒ぎだしなあ。池袋の都市伝説だしなあ。
臨也さんは新宿に引きこもっててくれないとシズちゃんが大暴走だし。
そこまで考えてシズちゃんを思い浮かべるが、彼が出てくると残念ながらもっと厄介なことになる気がする。
彼は基本的に過剰防衛になっちゃうから・・・私が原因で傷害事件になりでもしたら、それこそ合わせる顔が無い。
あともう一人、正しくはあと四人いるけども、彼らは大概まとめて車の中にいるため、こんなところにいるはずもなく。



げんなりしたのを顔に出さないようにして、私は本気でそろそろ張り倒そうかと思って、目の前の男(×3)を見上げて、



「こんな時間からなにやってんだよ。一人にたかるなんざ趣味悪いな」
「あぁ?」


その後ろに、もう一人いることに気づく。
あれ、この人を、知ってる。


「趣味悪いっつってんだよ なあ」


まずい。喧嘩になる。
そう思った直後、イラついたらしいチャラいのの一人がその誰かに殴りかかる。
避ける。
それで、チャラいのの鼻っ面に、頭突き。華麗。すごい。わお。

一人が倒れたのを見て、私は彼のほうに、人ごみがあるほうに、飛び込む。
倒れた男を飛び越えたせいで 少しよろけたが、彼はそれを見越して私を受け止めて支えて、手を取って、手を引いて、走る。

後ろから怒声が聞こえるが、止まってやる筈もなく。
前を走る人を見る。黒い帽子。ごつごつした、大きい手。握ったことは無いけど、この手を、知ってる。








「かどた、さん」






答えるように門田さんはちらりと私をみて、

「もう少し走るぞ、人ごみ突っ切って振り切る」


私は無言でうなずいて、彼の後に続いて走る。
走る。
走る。
走る。
通りを抜けて信号にぶつかりそうになったから向きを変えて走って、池袋の街を疾走する。
門田さんが前を走ってくれてるおかげで私は何かにぶつかることも無く。

「わっ」
「もう少しだ、がんばれ」

思わず手が離れそうになったときでさえ、手を強く握り返してくれる。





後ろを振り向く。
もうそこには、私たちを追ってくる人間はいなかった。
念のため視線をあちこちに移しながら後ろを見て走っていると、前にぶつかる。

「っ」
「!悪い」
「や、私こそ・・・それよりありがと門田さん」
「いや・・・というかなんで逃げなかったんだよ。お前なら逃げられるだろ」
「過剰防衛にしかならない気がしまして・・・」

そう呟くと門田さんはしばらく考えて、「ああ、なるほど」って言った。できたら否定してほしかった。

「・・・・、俺の電話番号とかアドレス、教えてない、よな?」
「え?うーんと、ちょっとまって」

アドレス帳をナナメ見してみる。かきくけこ。ない。
念のため、たちつてとの欄も見る。(ドタチンで登録してる可能性もあるから。)(こんなこといったら文句言われそうだけど)
えっと・・・

「ない」
「・・・だよな。俺のほうにも入ってない」



と、そこで、私はずっと門田さんの手を握ってたことに気づく。


「っ!ごめ」
「お、おう」

飛びのくように手を離して、数秒、沈黙する。
沈黙を破ったのは門田さんのほうだった。
照れたように、「・・・携帯、貸してくれ」と言って門田さんは手を出す。
私は自分のプロフィール画面を開いて、黙って携帯を渡す。









少しして、門田さんが私の携帯を突き出す。
かきくけこの行の一番上に、「門田京平」の文字が入ってる。

「・・・・・次からなんかあったら俺にかけろ。次絡まれたら「彼氏いますから」とでも言って逃げてこい」
「それで引き下がってくれるといいんですけど・・・」

受け取りながら呟くと、門田さんは「あー」と言って、少し困ったように考えて、




「そしたら電話しろ。彼氏の振りしてやるから」





数秒考えて、自分の顔が少し赤くなるのがわかった。
悔し紛れに、顔を少しうつむけて、言い返す。

「ちゃんとそのときは名前で呼んで------」



なんだその即答。反則だ。
顔を上げると、門田さんは、優しく微笑んで私の頭を撫でる。






そうして始まるの行方



 ( なんだこの人、かっこいい )









かどたさんかっこいい

2010.11.14