彼は、本当に時々、人肌が恋しくなるらしい。
そのスイッチがいつどうやって入るのかは知らない。でも。本当にときどき、彼はこうやって今みたいに抱きついてくる。
うん。
それが、暇してる間だったらいいのだけれど。
洗い物中は、大変ご遠慮願いたい、ですね。
「ちょっと一方通行、今は離れてくれると助かるのだけれど」
「断る」
断るって、断るってどういうことだ!
彼の腕は私の腹部前でがっしりと組まれていて、逃げ出すことなど叶わない。
洗い物中にがっつり抱きついてなくてもいいじゃないと思うんだよ私は!とか思っていると、一方通行が私の肩に額を乗せて、体重がかかってくる。この甘えっぷりに、別人みたいだと思いつつも、俺様っぷりは相変わらずである。
ため息をつきながら片付けをしていると、一方通行が顔を上げて、熱が離れる。「どうかしたの?」と問いかけてみれば、「手伝う」という言葉が返ってくる。横に立って洗い始めた彼を窺うが、ここで気がついたことが、ひとつ。
「一方通行、・・・・・もしかしてすごく眠い?」
「・・・・別に」
うそだ!絶対こいつ半分寝てるよ!むしろ寝ぼけてるよ!絶対寝ぼけてる!
そんな彼が包丁を持ったりなんかしちゃったので、「だっだだだだ、大丈夫なの 包丁とか!」と聞いてみるけど、案の定、落として、
「ああああああ」
がしゃんと言う音がして、一方通行の人差し指に、赤い線が浮き上がってくる。
切りやがった。指。あああもうなにこのこいみが!わから!ないよ!幸いばっくりはいっていないけど、それでも怪我は怪我で、出血は出血である。
一方通行の手を止血しようと思って、怪我しているほうの手首を掴んでキッチンから出ようとするが、なんでか彼は珍しくきょとんとしてて、キッチンから動こうとしない。そんなことをしている間にも、彼の指先からはぷっくりと血の球が浮いては流れていっている。
「おいこらはやく!止血!」
なんなんだこいつまだ寝ぼけてるのか!そんなことを思いながら彼を見ると、
いつの間にか、逆に私の手首を掴んでいて、
「舐めろ」
バカじゃねぇのこいつ。
寝ぼけてんじゃないのこいつ。なんなのこいつ。と、反射的に思ったのは言うまでも無い。
「はあ?」と思わず間抜けな声が出て、ぽかんとしていて、彼の顔が、至近距離に来ていたのに気づかず。次の瞬間には唇に暖かい感触が、触れていた。
ぽかんと口を開けていたせいで、難なく一方通行の、熱を帯びた舌が入ってくる。寝ぼけていたとは思えない。逃げようともがいても、怪我をしていないほうの一方通行の腕が頭をがっしりと掴んでいるせいで、ついでに腕が背骨に沿って伸びていて、まじでこいつ逃がす気、無い。不可能である。苦しいやら意味がわからないやらで、一方通行の手をぎゅう、と握り締める。次第にキスが深くなって、意識が浅くなるほど酸素を奪われて、彼の胸板をばしばしと叩く。
「ま、まって、まって。わかった、から」
彼の拘束が緩んだ一瞬になんとか彼を引き剥がして、肩で息をしながら言う。
一方通行はどうして止めるんだ、とでも言うような目をして、私を見る。本当になんなんだ、こいつは。少しだけ彼を睨み付けてやる。
・・・・止血するだけだからね、とまず最初に宣言をして、舌を出してちろりと血を舐めとる。
鉄さびの味がする。ぞわりと鳥肌が立つ。でもそんな理由で、一方通行が止めるわけもなく。
「なァ、」
「っ、?」
「もう何回言ったか忘れたけどよォ」
そこまで言って、一方通行は私の口から指を引き抜いて、「もう逃がしてやれねェからな」自分の口に、もっていって、見せ付けるように傷口に舌を這わせる。
血はもう止まっていたけれど、うわああうわああ、えろ、えろい。あんなキスされて、あんな顔されて、さっきから、顔から熱が、引かない。絶対いまわたし顔真っ赤だよ。だからせめて強がって、「だったら、」一方通行の首元を掴んで引き寄せて、触れるだけの、キスをしてやる。血の味がした。きっとそれは一方通行も同じだろう。「絶対逃がさないでよ」そう言って。血の味がするキスだなんて、まるでなにかの、悪魔との契約みたいだ。死んでも離れられないような、そんな類の。
睨みがちにそう言ってやれば、一方通行は「上等」と言って、にやりと笑う。
挑発を挑発で返した結果として、数秒後には、私はベッドに押し倒されることになったのでした。
「ちょ、ちょっ!うそですよね!うそですよね!?」
「ここまできて嘘なンてあるわけねェだろォが」
「っ・・・んぅ・・・!」
・・・・・ああなるほど、こういう契約か。
理性というストッパーを降板させろ
(残念だったな、俺に愛されて)(・・・うれしい、けどね)(ッ・・・バァカ)
びびびびびえ・・・・ろ・・・?これは注意マークつけなくてもセーフか・・・な・・・一通さんは寝ぼけてるんじゃなくてむらむらしてたんじゃないんですか
口に指突っ込まれてるのって萌える タイトルはバニラレバ様からお借りいたしました。