「うわ・・・まじか・・・」
出かけようと思っていた日に限って雨が降るのは、わりとよくあることである。まことに残念ながら。
「オイ、」
「なに?」
「この服はどうにかならねェのか」
「そんなの私じゃなくてその服を置いて行ったやつにしなさいよ」 それが嫌なら洗濯物乾くまで女物でも着る?と言うと、嫌なことを思い出したような顔をして、一方通行が口を噤む。
とはいっても、別にものすごく奇抜なセンスを押し出しているような服ではなく、普通の白いYシャツにネクタイ、下はカーゴパンツというような格好である。単に着慣れていないからこその違和感なのだろう。「そういうカッコだって似合ってるのに」というと、「・・・そうかよ」と照れた様子での返事。・・・あれ?なに、こいつ。可愛いところあるじゃないか。
「今日さ、しばらく分の服、買いあさって来ようと思ったんだけど」
・・・一方通行に昨日の魔女との会話をそっくりそのまま伝えるわけにはいかないので------とりあえず「向こうの時間は今止まっているから、打ち止めのことは大丈夫」と話すと、「そォか」という短い答えが返ってくる。あまりにあっけない答えだったので、私が「信じてくれるの」と聞けば、「まァ、お前がそういうンならそうなンだろ」というような答えが普通に返ってくる。まあそんなこんなで、私たちは束の間の無期限休息を楽しむこととなったのでした。だから今日お買い物に行こうと思っていたのです。主に一方通行のもの。(あいにく、他世界と行き来する際に色々セコいことをやっていたので、お金には困っていないのである。)(勿論セコいことは多分この世界でもやったのである。でも汚い金ではない筈なのである。まあどのみち、一方通行には内緒なのである。)
「雨だな」
「雨だね」
はあ、とため息をつく。とりあえず、 電話の横のメモ帳を取ってきて、
「買い物リスト作ろう。なんかほしいものありますか」
「いらねェよ ンなもの」
「服はー 雨のときも合わせて5着は・・・欲しいよね。あと靴もそうでしょーもしかして洗顔料とか必要かな。ワックスとかはいる?」
「人の話聞けよ」
一方通行の講義の声は完全にシカトして、私はメモ帳に言葉に出したものを書き並べていく。
「あとお小遣い要りますか」
「お前パッと見・・・学生かニートじゃねェのか・・・金あンのかよ?」
「(ぎくっ)その辺は気にしない方向でお願いします。色々世界飛び回ると、モンスター倒すとお金貰える世界とかもあったのですよ」
勿論一部嘘ですけれど。
「まあ、お金は気にしないでください」
「・・・そうなのか?」
「ええ、そうしてください。物価はそうですね、・・・学園都市より少し高いぐらいですか」
とりあえずこの世界じゃお金がものを言うのですよ。ああ、駅とか行くと一通さん確実に迷子になると思うので、単独行動は厳禁です。
俺が迷子かよ。
でも本当にですよ。
「その辺のモンはいらねェからよ、」
そう言って一方通行は、ソファに寝転んだまま私の首に腕を回して引き寄せる。
「寝るか」
「また寝るのかよ!」
「あァ、お前も一緒にな」
「待て、あんた寝るんだったら私はこの世界のお友達と感動の再会果たしてくるから。あと借金回収」
「ちげェよ」
そう言って一方通行は意地の悪い笑みを浮かべて、
「お前がいなきゃできねェだろォが」
待て
待て。
こいつ、
昼間から盛る気なのか・・・!?
さすがに顔が青ざめる。
「じゃ、じゃあ買い物行こう!ね!」
「雨だぞ」
「東京には地下街というものがあってだね、雨でもあんまり気にせずにお買い物ができるんだよ!」
最寄り駅まで5分ぐらいでいけるし、山手線っての使えばすぐ池袋出るし!そうなんとか力説すると、
一方通行からちっ、という舌打ちが聞こえて、私は何とか連れ出すことに成功
『続いて交通情報です。現在、山手線は、大雨のため、運転を見合わせています------』
しませんでしたああああああああああ!
「今、山手線って言ったよなァ?」
「そう、です、ね」
「止まってるんだってなァ」
「じゃ、じゃあ私外出かけるから寝る部屋で着替えて」
「安心しろ、」
「へ?」
「俺 も そ っ ち 行 く か ら」
「ちょっま、―っ!」
冷雨の功名
(勿論私にとってではなく彼にとっての)(明日も腰痛で買い物行けなかったらどうしてくれるんだこの白髪!)
こんなうちの子みたいな便利な性質があるなら私はポケモントレーナーになりたいです。(真顔
東京で迷子とか、田舎っ子だったらパッシブスキルだよ