さて。
まず今日しなければならないことから、考えようか。
一方通行を目の前に正座させて、とりあえずこの世界(というべきか)のことを色々と話し、(一方通行はかなり不服そうだった)(でも超能力が使えないということが決定打になったようで、渋々認めざるをえないようだった。)これからのことについて二人で話し合った結果、とりあえず戻る方法を探して奔走という結論になったのである。まる。
一番の心配ごとは勿論------我らが最愛、打ち止めのことである。私たちがこの場所で今この時間をすごしている間、あの超能力の世界はいったいどうなっているのだろうか。
止まっていればいい。止まっていれば、いいのだけれど。・・・ああ、そうか。こういうときは。
「あんたちょっとテレビでも見てなさい」
リモコンを操作してテレビの音量を上げて、そのままソファの彼に投げつける。そして一方通行をとりあえず残して、一人で寝室に戻る。一方通行がなにか言いたそうな顔をしていたが見ない顔をして、パタンとドアを閉める。
電気は点けない。点けないままで、目を閉じる。そして私は、ドア向こうの彼に聞こえないように、-----魔女の名前を、呼んだ。知り合いの魔女。絶望のどん底にいた私に希望を与えた魔女。私がもう一人の性悪魔女に目をつけられるきっかけとなった魔女。その名を-----奇跡の魔女、ベルンカステルという。
「呼んだかしら」
部屋から、私以外の声が、耳に届いた。
「聞きたいことがあってね」
「そう。じゃあさっさと言って頂戴」
「私がさっきまでいた超能力の世界の時間は今どうなっているのかな」
そう聞くと、魔女は目を閉じて-----多分、あの世界のことを窺っているんだろう----「止まってるわ」と答える。
今まで何度かもう一人の魔女に騙された経験があった私は、念のため「本当に?」と質問する。すると少しいらいらしたように、「本当よ。私をラムダと一緒にしないでくれないかしら」と返ってくる。そう返ってくるなら、間違いないだろう。
「・・・まあ、この"奇跡"は貴方たち二人の休暇みたいなものだと思うわよ。私たちで言う賽殺しのようなね。・・・せいぜい楽しんだら?」
休暇。休暇か。何休暇なんだろう、と少し考えて・・・・・・・・・・・・・・ああ、もしかして育児休暇だろうか。と苦笑する。
「ねえ、あの世界に戻る方法を教えてほしいのだけれど」
「それぐらい自分で考えなさい。・・・ああ、でも」
そこまで言って、彼女は意地の悪い、これこそが魔女だと言わんばかりの笑みを、浮かべる。
「ここはただの"0.001%の奇跡"・・・いわばバグが起きてノイズが入ったゲームみたいなもの。なら、リセットすれば99.999%の可能性で元の世界に戻れるっていうことじゃないかしら」
リセットの手段は知っているわね。と続けて。ノイズ。ノイズ。リセット。・・・ええ、もちろん、よーく、知っています。
ほかに手段は無いのね、と言うけれど、返ってくる答えは自分で考えろ、で。これ以上聞いても無駄だろうと思って、私は彼女に質問することを諦める。
そもそも魔女と名のつく存在が、ここまで教えてくれるほうが珍しいのだろう。
「ありがとう」
「巻き込んだ以上最後まで付き合わないと、貴女の知り合いが煩いのよね。まあ、私たちが退屈しない程度に手伝わせていただくわ」
「なんで私死んだのだっけ。殺された覚えは無いのだけれど」
「・・・そうね」
奇跡の魔女はそう言って、にやりと本当に楽しそうに、笑う。
「教えないほうが、退屈しのぎになりそうだもの」
「相変わらず性悪」
「貴女の存在有りのハッピーエンドに辿り着けるといいわね」
そう言って、魔女は消える。霞のように。
「アクセラレ・・・・」
・・・うわ、また寝てるし。
3人は座れるソファを一人で陣取って、穏やかな顔で眠っている。銀髪がきらきらと昼間の太陽に光っている。
一方通行が枕にしている肘掛に手を掛ける。ソファが軋む音がしたけれど、まったく起きる気配も無い。
「こいつ本当に裏世界で生きてるっていう自覚あるんだか・・・」
めっちゃねてる。
超寝てる。
穏やかに寝てる。
そうとしか言いようが無い。このやろう。私がどうすれば彼を元の世界に戻せるかということを考えている間に、こいつは寝ていたのかこんちくしょう。・・・と、そこまで思って、
( そんなに疲れてたの、かな )
彼の頬に、手を寄せてみる。・・・・ぜんぜん、起きない。起きる素振りすら見せない。
「かわいいなあ」
確かにこのソファは、カーテンを開ければ日向になるような場所に置いてある。そういえば今こちらは春だった。・・・春の日差しが差し込んできて、ぽかぽかと本当に暖かい。
確か前、兄がふらりと来たときに置いて行った着替え(ややセンスが悪い)がまだ残してあったはずだ。身長は私よりはあるものの、男性としてはそこまで高くない身長・・・確か160ぐらいだっただろうか。なので、サイズも大丈夫だろう。あーあ、本当は買い物にいく予定だったんだけどなあ。着替えとか、この町の最低限の地理とか、色々。でもま、
「明日でいっかあ・・・」
私も、寝ることにしようと思う。
誰も知らない物語
( ニンゲンは誰も知らない )( 魔女だけが知っている )
なんかこのまま行くとヤンデレエンドになりそう