まずなにが頼れるだろう。なにをすべきなのだろう。そう考えはしたが、事態が事態である。誰に相談すれば方法が見つかるかだなんて、まったく想像がつかない。残念ながら。あの世界で死んだのだから、この世界で私が、あるいは私たちが死ねばあの科学と超能力の世界に戻れるかといえば------簡単にそういくとは思えない。こんなこと、こんな魔法のようなこと、奇跡でしか起こりえないのだろう。あの性悪の魔女どもに相談すれば突破口は容易に見つかるのかもしれない。でも、できたらそれは避けたい。だって。「貸し一つ作ったわよ」と言われて何をされるかわからない。今ですら何かされまくっているというのに。そんなことを考えていると『手を貸して差し上げてもいいわよ、ただしあと貴方の年齢で100年分は遊ばせてもらうけれど』とかいう物騒な声が聞こえてしまったので、やはり却下だ。「むしろ今まであんたたちの人形劇で演じてやったんだから、あんたたちが逆にその貸しを私に返すべきよね」と返してやる。本当にとんでもない魔女どもだ。どうしてあの日、私はあいつらの提示する要求を一度でも呑んでしまったのだろうか。「愛の力は偉大ってことか」そう呟いて、自重気味に笑う。
次。次の案。これは本当に本当に本当の、最後の手段。
死ぬことだ。勿論諦めるということではなくて、ほんのわずかな、何パーセントかもわからない可能性を、試すということだ。
でも、・・・もしそれを行うとしたら、一番の大きな問題が一方通行のことである。
本当に終わるかもしれない。
生き返るのは、私だけかもしれない。
滑稽だ。
なにせ私は生かすことより、殺すことのほうが得意なのだ。
せっかくこの話になったのだ。この世界での私の立ち位置でも、話そうか。
私の名前は言うまでも無いと思うので、あえて名乗らないことにしよう。
見た目年齢は多分、高校生ぐらい。実年齢はもう忘れてしまった。
もともと某施設で人体実験をされていたのか知らないけれど、私固有の能力としては血液のことが挙げられる。
まったくよくわからないとんでも要素によって、私の血液は可燃物、いや爆発物である。とても火のつきやすい物質で、
空気に触れている状態、つまり私の体外に出ている間ならば、ほんの少しの火花でも引火、または爆発する。
あとは治癒能力。魔法みたいに回復するわけではないが、興奮していると放出される脳内物質、アドレナリンが出ている間は本当にすぐに傷が治る。----ただしくは、治るというよりは、巻き戻るらしい。そういうわけで、私の成長は、見た目年齢らへんで完全に一時停止されている状態なのである。
とある事件で魔女の力を借りることになり、その結果、何度も何度も繰り返し、別の世界の別の物語に飛ばされては戻されている。
私は死ねない。私は死なない。ついた異名は"永遠症候群"と、どっかの性悪魔女が言っていた。ちなみに彼女たちだけに通じる"フリガナ"とやらがあるらしいけど、それは私は聞いていない。別に、聞きたくも無い。
ああ。魔女の力を借りたからといって、特別な魔法が使えるわけではない。ただ途中退場をせずに、最後まで話をひっかきまわして出て行く。それだけの存在である。だから私は時々思う。私の存在は、誰かを助けられるのかと。でも私は、うん。奇跡は、あると思う。
私がそんなことを思い始めたことには、ちゃんと理由がある。
ことの発端は、またあとで語ることにしよう。
そう、あと、そして------------殺人鬼である。
あああああ自分で言うと寒い。
一方通行ではない白髪頭の兄はどういう気分でこれを名乗っているのだろうか。寒い。次にあったらお前寒いよといってやるしかないなこれは。
鬼である。人ではなくて、鬼である。あ、これ俳句っぽいな。・・・やばい。自分も寒くなってきたぞ。いよいよこれはまずいよねえ、どうおもう?
この世界には、殺し名というものが存在しまして。
その中に、零崎という名前が存在する。人呼んで、殺し名序列第三位、<零崎一賊>、です。
先ほど名乗るまでも無いとは言いましたが、私は零崎でもあります。名前はありませんけどね。
理由無く人を殺す。
仇なす者は、皆殺し。
血のつながりは無く、殺人鬼という性質により繋がる。そんなキャッチフレーズを背負っているとかなんとか。ああ、勿論この場合の"人呼んで"っていうのは、勿論裏社会覗いちゃってる人たちのことね。一般人ではない。
うん。
ここまで説明しておいていうのもなんだと思うのだけれど、自分が本当に殺人鬼か、っていうのは、結構謎だったりするんです。一賊ほとんど全員が死んだあと言うのもアレなのだろうけれど・・・殺人衝動というものが無いんですよね。殺さなきゃ死んじゃう!なんてこといいませんよ。痛々しい。
"きょうだい"の話を聞くと、殺人衝動抑えるのが結構難しいとか言っていました。"少女趣味"という、少女以外は殺さないという人がいたのですけれど、彼がよく耐えているなーと言われていたのを、偶然聞いたんです。
人を殺せる人間だとは思います。
殺意にも敏感です。
そうですね。
殺すときにいちいち、殺す殺すって考えないことでしょうか。
なんていうか。
私は人を何も考えずに殺せる人間だとは思います。
別にいちいち考えないです。
殺人狂とか狂戦士とかではないですけれど、そうですね、私たちのことを狙った人間をただで帰さない自信程度は、持ち合わせております。
え?なんでこんなこと教えるのかって?
そうですね。
さっき言ったように私は人殺しではありますが本当に根っからの殺人鬼かって聞かれると疑問なんですよ。あなたはどう思いますかっていう話。勿論、今考えた理由です。・・・・ああ、確かに。殺した人数だけ言えば、確実に殺人鬼っていう分類に入ると思いますよ。
・・・しょうがないですね。本当の理由でもいいですね、別に。
聞きたいって言うから答えてあげたんです。
冥土の土産ってやつです。
・・・どうやってって?気づかないんですか?
じゃあ、気づかないままがいいでしょう。
おやすみなさい。
境目の話
なにこのこちなまぐさい