「、そいつはなん」
どん
どすん
ばたん
閉め出しを食らって一室に閉じ込められた一方通行の声が後ろのほうから聞こえる。
開けろ開けろ、と聞こえはするが、超能力の使えない一方通行。慣れている。
扉を押さえつつ、腕を組んで、招いていないはずの客人に向き直る。
「突然来るなんてまっっっっったく聞いてないんだけど。相変わらず暇のようですね」
「そうじゃなきゃあんたをおもちゃにして遊んだりしてないわ」
「自覚あるくせに続けるなんて卑屈ですね」
「あんたが諦めるか、あんたに飽きるかしたらちゃんと分別して捨ててあげるわよ」
「燃えるゴミ?」
「それがお望みなら煉獄で焼いて差し上げるわ」
「後悔してないから燃えないんじゃないの」
「あら。じゃあ不燃物ってことでそのままどこかに放置してあげようかしら」
「不法投棄はいただけないですね」
「そのうちどこかの物好きが拾ってくれるわよ」
ふん、とお互い卑屈な笑みを浮かべて。
紫色の少女、"奇跡の大魔女"とは、向かい合う。
後ろの音は静かになっている。おとなしく聞き耳を立てることにしたのか、他の出口を見つけることにしたのかわからないが、好都合ではある。
「それで、今回はいったいどんな取引をするのかしら」
「あなたの退屈を代償にして」
「・・・?」
「あんたを言い負かしてあげるよ、奇跡の大魔女さん」
その瞬間。狂ったように。
がこうなってしまったほとんど全ての原因を担う魔女は、笑い出す。
そして、一瞬でぱたりと笑顔が消えて。
「勝てっこないわ」
「・・・」
「勝負は何度も繰り返すわけじゃない----あんたと私は決定的な違いがあることはわかってるでしょう?」
嘲るように見る、魔女。
睨み付けるように見る、。 少し、 黙って、 口火を切る。
「でも、一方通行がこの世界にいる。それだけで十分でしょう」
「・・・?」
魔女が怪訝そうな顔をする。
「--------私の後ろにいるのは、この世界の人間じゃなくて別の世界の登場人物。・・・それも、重要な」
「だから?」
「彼を必要としてるカケラと世界がある。あの世界は必ず彼を取り戻そうとする」
「それで?」
「あの世界はこっちの味方だってこと。神様とかいう存在がいるのかはしらないけど」
「だったら私がその神様を殺してあげようかしら」
「できるの?」
「奇跡だもの」
「そうじゃなくて、あんたは --------を---------の?」
その瞬間、一方通行の知覚に、異変が、生じた。
の声の一部にノイズがかかったように聞こえる。
どくんどくんどくんと血液が流れる音が大きくなる。自分の目がだんだんと見開かれていくことを感じながら、ものの数秒で、一方通行は意識を手放す。
いったい、どの言葉がなにに触れたのか。
ドア越しに、どさり、という音が聞こえる。
「・・・」
「気絶で済んでるといいけど」
「・・・」
「聞いてるんですか?ベルンカステル卿」
「・・・いいわ、向こうに送り返してやる」
「それはどうも」
「絶望して絶望して死に続けるがいいわ」
「私まで向こうに戻せとは言っていないけど」
「・・・戻らないわけ?」
数奇に落ち行く
「戻らないよ」
(その呟きを、彼は知らない)
「あんたはあの羽入と同じ存在を否定して殺すことができるっていうの?」