では、ことの発端についての話でも、はじめようか。
















目を覚ませば、そこは私の部屋だった。




「え、は?」





そう。驚くべきは-------私の、部屋だったのだ。
私の部屋など、ここ50日ほど見ていなかった。私は、私は、あの学園都市の、一方通行の部屋に、寝泊りしていたはずだ。
むくりと上半身だけ起こして考える。最後に死んだ日。ビルから落ちたことだけは覚えている。ああああ、この感覚はいつもの、私が完全に死んだとき特有のものだ。霞んだ記憶。思い出せない。思い出せない。私は両足を引き寄せて、顔を埋める。でも考えるべきは、いったいどうしてわたしが、あの世界からこの世界へと唐突に戻ってしまったか、ということである。これで輪は完成された。ババ抜きで言う、ジョーカーが、抜けた。余すことなくハッピーエンドでは、確かに、ある。でも。でも。喜ぶべきなのに、素直には、とてもじゃないけど喜べなかった。超能力の無い世界に、私は戻ってきてしまっていたのだ。

新宿の一室。見慣れた窓からの風景。見慣れた写真。見慣れた家具。布団。とりあえず考えるよりも何か腹に入れるべきだと思い(勿論食欲は沸かないのだけれど---)、私はドアを開けた。





白い奴がそこにいた。





死ぬほどびっくりした。

私がこの世界に戻ってきてしまったという事実を理解したときより、びっくりした。




白い髪の知り合いはこの世界にもいるが、
その人間その1の髪には白以外にも色々な髪が混ざっている。よって、そいつは違う。その2はそもそもこんなところに来るような人間ではない。他の数人の知り合いも同様である。
彼はソファの上でぐっすりと眠っている。

驚いて私はばたん!と大きな音を立てて、寝室へと戻る。
どうして?どうして一方通行が、ここにいるんだ?



「どういうことだ、これ・・・」



頭を抱えて暴れたい気分である。
そのまま数分閉じたドアの前でじたばたしながら(勿論極力音を立てないように。)考えて、私の胃がいい加減物を入れろと自己主張してきたので、やっぱりとりあえず食べることにしたのである、まる。
今日はいつだろう。今は何年なんだろう。食料はどうなっているのだろう。と思ってとりあえず冷蔵庫を開ければ、中には新鮮な野菜、賞味期限の切れていない肉類などが入っている。恐らく、私が消えた日のままなのであろう。

卵を割る。念のため匂いを確認するが、どうやら腐ってはいないらしい。
トースターにパンを入れて、焼けるまでの間に油を引いたフライパンに溶き卵やベーコンを入れて焼く。
まことに。
慣れたキッチンである。
これからどうしよう。うわあ。知り合いに、とも思うが「知り合いが他の世界からトリップしてきたんだけどどうやったら戻せると思う?」なんて聞くか、普通。むしろあの私を弄んでいる魔女どもを締め上げたほうがまだ現実味があると思うのだ。まあ、魔女に現実も何もないだろうけれど。


などと頭を抱えている間に、パンが焼けた。やっぱり食べてから、考えようね。








食べ終わって考えても結論は出なかった。何しろ、初めてのことなのである。
彼がいるので出かけることもできない。

ああ、そうか。

どうやら私は本当にパニックになっていたようだ。こんなことにも、こんな簡単な事にも、気づかないなんて。



「おいこらアクセラなんとかいい加減起きろこのやろう」

普通これが一番ですよね。
すうすうと穏やかな顔で眠っていた一方通行が少し眉をしかめて、「るせェ・・・」と呟いて、一瞬だけ目を開ける。そして二度寝に入ろうとする。だがさすがに、彼も、違和感があったらしく。次の瞬間には飛び起きて辺りを見回していた。



「ここどこだ」

「新宿です」

「新宿・・・?」


ああそうか。学園都市は、私のいる日本でいう東京付近一帯に存在するのだ。新宿は無いのか。なるほど。
それならば説明を切り替えなければならないな、と私は思って「私のいた世界。まあ実家みたいなもんかな」と返す。一方通行は信じられないとでもいう顔をして、もう一度辺りを見回して、窓に駆け寄る。
さて。
とりあえず、実験である。


「一方通行、バッテリー入れて」

「? あァ」

「反射はできる?」



そう問いかけると彼は数分色々な仕草をしてみて



「・・・できねェな」



そういう結論に、達する。
一方通行はだいぶ不機嫌そうになって、ソファに再度腰掛ける。テレビをつける。チャンネルをくるくる回して、適当なところで止める。見てはいないんだろう。多分かけているだけだ。ただの、BGMだろう。
それを背にして、私は考える。

異世界の理論を詰め込もうとすると頭がぶっ壊れるっていうのが本当なら、この世界独自の知識を頭に入れようとすればアウトなんだろう。
でも幸いというべきか、この世界はそこまですごくない。科学も技術も学園都市のほうが数段上であるはず。なぜなら、この世界に超能力は存在しないからだ。

だからその、ほんのひとにぎりの知識に触れさせないようにすること。
そして、彼を、ミサカちゃんがいる世界に返す方法を探すこと。それが、今やるべきことだろう。
私が戻るかどうかは、----今はまだ、保留でいい。



そんなことを考えながらソファの前に突っ立っていると、




「情けねェ顔してねェで、来いよ」


そんなことを言う一方通行にソファに引き込まれ、抱きしめられる。「ンなこと言うのは俺にあわねェが・・・とりあえず、頼りにさせてもらう」そう呟いて、「お前だってパニクッてンのはわかってる。でも、お前しか、今は、」彼は私の首元に顔をうずめる。

めずらしかった。
こんな弱気な一方通行は、初めて見た。だからこそ、私がなんとか、する。







「大丈夫だよ。途中退場なんて、格好悪いもんね。」



めない。そんな未来。

(彼を助ける。どんなことがあっても。)(私が、何者でも。)




オチがぜんぜん思いつかない
2010.4.6