ひゅんひゅんひゅん、という風を切る音が目の間あたりで続けて聞こえて、少年はその場に尻餅をつく。
聞きたいことがあります、と目の前の----年齢、恐らく16、17辺りの少女が、ナイフを首に突きつけて、言う。
目の前で四つんばいになって、こちらの顔を覗き込む、という状態はいささか少年にとって美味しい状況のようにも見受けられるが、凶器を突きつけられているという事実と、その少女の視線が殺意を一切隠していないということで、少年-----上条当麻の背中には冷や汗すら流れていた。
なんで俺が。
最近いろんなことに巻き込まれて巻き込まれて巻き込まれて、狙われるという事に関してはまあいろいろと心当たりがありすぎる。しかし。一見この少女、魔術サイドの人間でも無さそうだし、かといって超能力を使ってくるかと思いきやまったくそんな素振りすら見せない。首筋からほんの少しだけ離れて突きつけられたナイフも、四つんばいになりながらも重心をしっかりと足へと掛けているのも、明らかに慣れているものの素振り、なのかもしれないとそんなことも、考える。
( 慣れてるってのか、こんな俺と大して年齢もかわらないような子が )
ナイフを突きつけられながらもそう考えるのが、この上条当麻という人間である。
少女が口を開く。
「貴方は一方通行を知っていたようですけれど、貴方は私たちの敵ですか?」
私たち。
そう言った。
「君こそ、一方通行の知り合いなのか」
「質問してるのは私です」
穏やかな声色での返答とともに、双眸がすう、と細められる。
至近距離であるために上条にはそれが、よく見える。少女はもう一度だけ「あなたは、私たちの敵ですか」と聞いてくる。上条は少し考える。そうして「一度はブン殴ったし、またアイツが変な道進もうとしたらブン殴るだろうけど、今は別に、ってとこかな」そう答える。
間違ったことは一つたりとも言っていないし、寧ろ正直に包み隠さず話したというべきである。そんな答えに少女は一瞬呆気に取られた表情を、上条と少女が出会ってから初めて歳相応の少女らしい表情をして、
ああ、貴方だったんですか。
彼を止めさせてくれたのは。
そんなことを言ってナイフを首筋から離すので、今度は上条が呆気に取られてしまう。
けれどなぜか。
彼女はナイフを畳まない。
「あの、」
「です。もう一つ聞きたいことがあるんですけど、・・・あの方って、お友達ですか?」
「え」
あの方、といってと名乗った少女は、数メートル上にある、高速道路の欄干を指す。
立ち上がってよく見ると、暗闇にまぎれて、変な男が立っていた。黒服。なんだあれ。見覚えは一切無い。
「私にも見覚え無いんですけど、どっちを狙ってきたのかな。二手に分かれてみます?」
「女の子一人で逃がせるかよ。・・・俺を狙ってるってわかってたらそれでもよかったんだけどな」
「私はさっきまであなたのことを殺そうとしてたんですけど」
「殺さなかっただろ」
あろうことかは、敵ではなく上条当麻を数秒凝視して。
「あんたみたいなお人好し、今までで5人ぐらいしか見たこと無いわ」
「・・・それ、多いのか少ないのかわからねぇな」
ああ、そういえば俺は上条当麻だと、名乗るタイミングを逃した彼は、困ったような笑顔で、を見返して、じり、と一歩下がる。反対には、一歩前へ出る。
「で、どうしましょ」
「逃げる」
「どこか安全な場所に心当たりでも?」
「・・・」
「じゃあ、一方通行さんに助けてもらいましょうか」
「どんな関係なんだよおまえら・・・!?」
「助けて一通さーん!!」
「アンパン○ン呼ぶみたいに軽い気がするんですけどもっ!?」
悠長にそんなことを喋る二人だが、相手が待ってくれる筈ももちろん無いわけで。
が、上条の二の腕を、思い切り引っ張る。上条がいたその場所に、銃弾が地面に穴を開ける。
「逃げますよ!」
その逃げるという単語が耳に届いた瞬間に、既に二人は走りだしていた。
こっちだ、と言わんばかりに手を引くを先導として、大通りを駆け抜ける。手を離す。走る。
とんとんと飛ぶようにジグザグに駆ける。
「大通りを、抜けるのかっ!?」
「そのとおりですっ!敵は五人!」
「ご、五人・・・!?行き先はどこだよっ!!」
がステップを踏むように体を反転して、追いかけてくる黒服に向き直り、持っていた唯一の武器であろうナイフを投げつける。命中したかどうかは上条には見えなかったが、はすぐに上条のほうに向き直る。
今度は別の方向から、銃弾が飛んでくる。上条を庇って地面に倒れこむ。すぐさま引き起こす。敢えて、上条を物陰に突き飛ばす。自分もその場から距離をとって走り出そうとして、ぶつかった。
「なにしてンだよ」
「え、ちょおあうっ!」
銃弾が、のすぐ傍で、"反射"される。
なんでここに。上条と対峙していたときの冷静さはどこへやら、は一切驚きを隠さずにそう言う。
続いて飛んできた銃弾も、同じように来た道を戻っていく。
この場所において一方通行の方に引き寄せられるのは、だけであり。
「助けてッつッたろ」
「え、うそ、あれ聞こえたの!?」
「まァな」
「地獄耳!」
「てめェ助けてやったのにそれはねェだろォが!」
上条当麻は一方通行の様子に軽く衝撃を覚えながら、ビルの隙間から黒服のいた方向を覗き見る。銃声は完全に止んでいて、学園都市は静寂を取り戻している。「・・・ま、いっか」 この場で出て行ったら確実に一方通行に絡まれる。これ以上の不幸はごめんだと思い、上条は彼らが立ち退くのを待ってから、帰ろうと考えて、
「あ、上条君とアド交するの忘れた」
「・・・今なンつッた?」
「わたし上条君とお友達になったんだよ」
「つまり、まだこの辺にあの野郎がいるッてことだよなァ?」
「え、そうだと思うけど何殺気立ってんのあんた!?」
「っつーかさっき言ってた用事ってあの野郎と会う用事か?」
「間違ってはいないけど絶対間違った意味で取ってるよ一通さん!あとこれは話せば長くなるけど理由があるんだよ!」
そのような会話に、本気で出て行けなくなった、上条当麻は一言呟く。「・・・不幸だ」 と。
Double Hero
(オイ、キッチリ説明してくれンだよなァ?)(な、なんでそんな怖いの!?)
戦闘シーンをカッコよく書けるようになりたいです。