「あー終わっちゃったーあ」
「なんつーかこの、終わった脱力感とがっかり感っていうか、空虚感は半端無いよなあ・・・」


がらんどうになった、体育館。
は先ほどまで、ゆりが座っていたパイプ椅子に腰掛けて足をぷらぷらさせながら、言う。
音無は奏を伴って、外へ行ってしまったから、こんな広い空間で、二人きり。


「色んなことが、あったよな」
「うん」
「楽しかったよ、俺」
「戦ってばっかだったけどね」
「・・・最初会ったときは助け合って、」
「次会ったときは準殺し合いしてたね。覚えてる?銃向けた私に日向が何を言ったか」
「・・・確か、『ありがとう』つったな。そんで次お前が、」
「『変態?』って言ったかな。いや、だって死にたいのかと・・・」
「普通返すとしたら『死にたいのー』とかじゃね?なんで変態っつったんだよおまえ」
「この世界で怪しい方向に目覚めたのかと思ったんだよ。ドMの最上級みたいな感じで」
「ねーよ!」

このやり取りも、さいごか。
そう思いながら日向は、屋上を仰ぐ。




「うん、私も楽しかったよ。結局私には、普通の学生なんてできなかったけど」
「・・・そう、だな」
「終わったね、卒業式」

戦歌の書いた紙を飛行機にして、飛ばす。ふんわりと浮いてすぐ、落ちてしまう。それを見て、日向が目を伏せる。

「ああ。あとは・・・出てく、だけだな」
「日向、合言葉、忘れちゃダメだよ」
「おう、わあってんよ。お前こそ忘れんなよ」
「だーいじょうぶメモっておく!私大体池袋か新宿にいるから、近く来たら声かけてね」

そういっては椅子から降りて、紙飛行機を拾う。広げて、折りなおして、もう一度。あまり飛ばないで、落ちてしまう。
日向がそれを拾いに行きながら、

「わっかんねえだろ、向こう行ったらそんなこと」
「わかるよ。だって私、死んでないもん」
「・・・ん、そうだったな。じゃあそういうことにしといてやらあ」
「あ、信じてないだろ!」
「つーかへったくそだなあ
「よく飛ぶ折り方忘れちゃったんだよ」
「あーはいはいそういうことにしといてやるよ」


の頭を軽く小突いて、日向が笑う。
体育館の床を使って自分の持っていた紙をぴっちりと綺麗に折っていく。
二台目の、紙飛行機。


「次逢うときは、もっと飛ばせよな・・・せめてこれくらい!」


日向が勢いよく、紙飛行機を飛ばす。
すい、と一瞬だけ風に乗って、次の瞬間には下を向いて、重力に引かれて。
それを最後まで見届けたは不満そうに


「なんだ、あんまり飛ばないじゃない----」


自分以外は誰もいなくなった体育館で、呆れたように笑って、呟いた。


















数年後-----


今日も暑いなあ思いながら、青い髪の少年はキャップを被り直す。そろそろ髪を切るべきか否か、真剣に考えなければいけない気がしてきた。
たまの休みを使って、友人を伴って遠出してみたがこれは失敗だった気もする。なんせ暑い。なぜ今日に限ってこんな快晴なのだ。曇りがよかった。でも同行人確かてるてる坊主作ってた気がする。そのせいか。効きすぎだちくしょう、と悪態をつきながら、少年は自販機を探す。
友人を先に日陰に避難させたとはいえ、一人にしては可哀想だろう。そう思いながらきょろきょろと辺りを見渡す。



昔見たことがある姿が、見えた気がした。

少女はこちらへ向かって歩いてくるが、帽子を目深にかぶっているせいで、顔がよく見えない。
こっちへくる。
こっちへくる。
すれ違う。

合言葉。

彼女に言われて、「それいいな」と了承した、二人で決めた合言葉を、ぽつり、と、呟く。

「さんねんしーぐみ、」

通り過ぎる。
だよ、な、と思いかけた瞬間に、



「音無センセー」



その声に気づいた瞬間、青い髪の少年は振り返る。
帽子の少女は,その手に持っていたものを上に構えて、空に向かって、飛ばす。






紙飛行機が、真夏の空に、高く高く、飛んでいく。









Fin.