雨音が地面に叩きつけられては別の雨音にかき消される。土砂降りの雨の中、俺たちは、グラウンドの中央にいた。正式には、戦っていた。

天使を失脚させて。
世界が変わると思った。
かわらなかった。
新しい敵が現れて、そいつは人質を取って俺たちを撃つような下衆野郎で。
片っ端から撃たれて、NPCを盾に取られて、俺たちは成す術も無く、ばたばたと血を流して倒れていく。痛みつけられて、苦しめられて。どいつもこいつも、絶望的な表情とか、苦悶の表情を浮かべながら、死んでいる。
俺も致命傷とまではいかないものの、傷を負って、地面に倒れ付している。痛ぇ。痛えなぁ。
・・・でもなんとなく、ここに音無がいないことに、安心した。
俺の親友。
今はどこにいるのか、わからない。でも。こんな思いはさせたくないから、ここにいなくて、よかった。

「・・・音無、・・・」


あれ、

なんで俺、の名前なんて、呟いてんだろう。

こんな、死にそうなときに、ああもう死んでるけど、あいつのこと思いだすなんてな。







ああ。
なんだ。俺、あいつのこと、結構好きだったんだな。








「ああ、もしかして食堂で水かけたこと怒ってこんなことしてるとか?」



だから、頼むから。



「それで人質とって盾にして撃ち殺して?さっむい奴ね」



目の前のあの赤いスカートが、あいつが、ただの俺の幻覚であってくれよ。



「ほんと、悪趣味」


じゃり、と俺の近くまで来て、が------紛れも無い、が、立ち止まって、直井と対峙する。


「それはどうも」
「随分鉄臭いと思ったらグラウンドが真っ赤なんだもん。どこの惨劇ゲームよ、これ。ったく私も混ぜてくれればいいのに」
「・・・貴女を呼ぶと面倒なので、呼ばなかっただけです。それに呼ばずとも、こちらだけでなんとか-----」
「んなこと言ってねえんだよ、クソガキ」
「・・・・」



直井が眉をひそめる。
「快楽殺人者でも無いくせにさーこんなことやって憂さ晴らしとか最低ですよねー」
「あなたに言われたくはないですね」
「ちょっと、私が楽しんで人殺してるような言い方やめてくれないかな」
「その割には随分戦い慣れてますけどね」

直井が片手を挙げる。
取り巻きが、囲むようにに銃を向ける。
「やめときなよ。囲んで銃向けるとか、ただの同士討ちにしかならない」
「強がるな。打つ手が無いんだろう。このまま同士討ちになるとしたらこいつらは死ぬことになるだろう----そういう場合、君はどうなるんだ?」
「どうもしない。自殺したい奴らを止めてやる義理なんて無いのよ私には」
「どうしようもない負け犬の遠吠えみたいな言い方ですね。…惨めだな」


「みじめ?」

が、ぽつりと言う。

「あたしから見たら----あんたに従っておとなしく消える方が---よっぽど惨めだね」

そう言っての手に、刀が現れる。

「----」
「掛かってきなよあんたが直々にさあ」
「・・・挑発には乗りませんよ」
「勝つ自信が無いんでしょ?」
「ほっといてください」
「・・・いいさ、あんたが神になれよ----そしたら私があんたを引き摺り下ろしてやる」


の後ろに立っている男の銃口が、の、心臓を、  捉え


俺は、反射的に、動いてた。

崩れる。
体に力が入らない。熱い。ソラの、驚いた顔が、目に入る。ああお願いだからそんな顔、すんなって、なあ、


「ひなたくん!!」

「ぐ、うぇ、・・・、だいじょ」

「何やってんの・・・?あんた馬鹿じゃないの!?」

いつの間にかこっちを向いていたが絶叫する。
ああなんだもしかしてこれ、俺が庇わなくてもかわせた、とか?ああなんだ。でもまあいいじゃんか

「っげほ、ばかって、ひどいな・・・せっかく庇ったってのに・・・」

「そんなかっこつけ要らないよ!なに考えて・・・っ」

「女の子が危なくなったら--------」


ごぼり、と口から血が流れる。

「止めるのが、俺の仕事、だろ」


はじめて会ったときも、そうだっただろ、と血を吐き出しながら言うと、が「かっこつけてんじゃない、ばか日向」そう呟いて、俺の体を支える。
ばかはどっちだ。
はやく。
はやくここから逃げろ。
俺のことなんて、捨ててっていいから。

そんなことが頭をよぎるが、言葉にならない。





「お喋りは済んだか------・・・じゃあそろそろ、死んでください」

「ああでももう--------時間稼ぎは、済んだみたい」

「な、に?」



・・・?


なにを喋っているんだろう。

よく、聞こえない。


音無がこっちに走ってくる。

奥に見えるのは、あれは、てん、し?


「日向!!」
「は、は・・・真っ先に俺んとこ来るなんて、コレなのか・・?」
「バカ言ってんじゃねぇよ!」

ああ。
また馬鹿って言われた。

みんなして、ひでぇなあ。

















「なあ、

情けないことにその場に完全に崩れ落ちてしまって、俺はに膝枕されてる状態だ。(まあこれはこれで、役得なんだけど)
そのは、片手は銃の引き金に手をかけたままで、反対側の手は俺の肩を支えている。
雨音に声がかき消されたかとも思ったけど、はゆっくりとこちらを向く。

「・・・なに?」
「ん、あったけえと思って」
「ばか、そんな出血してるからだよ」
「あと胸・・・もうちょい欲しいけど・・・これぐらいでも・・・」
「・・・」
「あの、なにか、ツッコミを・・・」
「ばかじゃないの、ほんとに」


いまはじめて、雨以外の、温かい液体が頬に落ちてくるのに、気づく。


「勝手に死ぬんじゃ・・・ないよ・・・」





06.涙が落ちるのは誰のせい


(もう死なないって約束したら、泣き止んでくれるのか、なあ、)