「音楽好きだね」
奇妙な奴だとは、思った。
「あんた、何者なんだい」
「あーもうそんな敵視しないでよ。べっつにこんなとこでミュージシャン相手に喧嘩始めようなんて思ってないんだからさ」
「・・・そうかい」
「ていうかむしろ、ガルデモの音楽はすごいと思うし。あんだけ学校生徒ひきつけるなんて、すごいじゃん?」
「ああ、ありがとう」
ふ、と愛想笑いを向けると、彼女、はすっきりとした笑顔でこちらに応える。----なんだ、この子、いい笑顔、するんじゃないか。
天使と一緒にいるっていう話ばかり聞いていたから、あんな感じで感情無くて、つまらない人間なんだと思ってた。でも別にそんなことは無い。なんてことはない、私たちと変わらない、存在。
そんな印象を受けた。
「私さあ、ロック以外も歌ってみたかったけど、まあいろんな理由で、ボツになっちゃったんだよね」
そんなことを漏らすと、彼女はのんびりと少しだけこっちを見て、また視線を外に移す。
「ロックは世界を救うんだよ」
いきなりそういって彼女は、その場に置いてあった、折れてしまったドラムのスティックを高らかに上げて--------
スティックが雲を切ったように、曇り空が、晴れた。
「でも、ロックだけが世界を救うわけじゃない」
「---------」
「私は世界を救えないけど、この場所には、他人の世界を救ってる奴がちゃんといるよね」
ふと、SSSの新人の、音無のことを思い出す。
そんで次に、ゆりのことを思い出す。
次に、今一緒に練習している、ガルデモの仲間たちを。
そして最後に------集まってくれる、観客を、思い出す。
「そうだね」
今度は心からの笑顔でそう言って、も笑顔を返す。
そして、岩沢にとって、ラストライブの日。
彼女は消えて、いなくなった。
05. 最後に光る