18:30、体育館裏


あたりはもう真っ暗で、体育館とか校舎とか、寮とかの光が煌々と照っている。慣れ親しんだ夜の影に身を寄せて、私はのんびりと周りを見渡す。

ガルデモ-----Girls Dead Monster -----の声が学園中に響き渡っているところを見ると、立華はまだ体育館には辿りついていないんだろうなあ。ぼんやりとそんなことを考えていると、その声と騒ぎにあわせて、ひとつ、銃声が聞こえる。私は単眼鏡を覗き込む。

あれ、と舌を出して私はそちらを見る。


「なんだ、あっちが本命かあ」

別に私は生徒会長じゃないし良い生徒でもないから、あのひとたちを止めることには興味が無い。


でもとりあえず、だから、私はそちらのほうに走りだすことにした。銃声のほうに。









乱射している音が聞こえる。
ガルデモの声が大きく聞こえるので、中にいる人間の耳には銃声は聞こえないだろう-----なるほど、NPCを傷つけないためとすれば良い作戦ではあると思う。


そんなことを思いながら

私は、立華に切りかかる紫髪の男の前に、躍り出る。


弾く。弾く。弾く。  弾き飛ばす。
ハルバートが弧を描いて飛んでいって、地面に突き刺さる。抜いた刀をひゅん!と唸らせて、紫を後退させる。ちい、と舌打ちが聞こえる。

その隙に、私と同じように銃声を聞きつけて駆けつけて来たらしいSSS、死んだ 世界 戦線 の今まで幾度と無く敵に回った面々が揃う。


、」

ぽつり、と日向君の口が動く。立華に比べて随分気に入られたものだな、と思いながら、と立華の隣に立つ。「悪いね遅くなって」そう呟くと、「別に」と表情を変えないままに返事が戻ってくる。

立華はそのまま前に進み続け-----


「Guard skill : Distortion」


と呟いたのを聞き、「げ」 私は身をかがめて、立華を盾にして座る。
ふぉん、という機械的な音がして、立華の足から頭が一瞬、光を帯びる。
日向君の声が聞こえる。
銃弾が舞う。
連射。
連射。
連射。
一気に火薬のにおいが強くなって、鼓膜が連続的に震える。うるさー!と思って私は防音用のヘッドホンを耳につける。
弾かれた銃弾が周りのコンクリートやら外灯やらに穴を開ける。
音が途絶える。
弾切れしたらしい。相変わらず立華の後ろにいながら視線を彼らに移すと、体育館の上から何かが飛び出てくるのが見える。髪の長い女。確か名前は椎名。忍者みたいな子。いい加減私にも出番をよこしてほしいものだなと思っていた私には丁度いい。そう思いながら、刀を抜く。ナイフ、いやあれはクナイか。まあそんなものが飛んでくる。弾く。勢いを無くさずに、椎名のほうに突っ込む。彼女も私が飛び込んでくるとは思わなかったらしく、たじろぎながらもう二本、右手にひとつ、左手にひとつのクナイを構えながら、刀を受け止める。


後ろで轟音が響く。


爆風。


なんだあれ、ショットガンか、炸裂弾かバズーカか。
軽く飛ばされる。肝心の灯りの部分が綺麗に吹き飛んで、ただの棒のようになった元外灯の柱に掴まって、衝撃を殺す。
彼女は無事か、と白い髪を捜す。
爆風の中に微かに見えた気がして、要らぬ心配かと私は二発目を封じるためにも一番体の大きい、バズーカ砲を持った彼に突っ込みかけて、



何かが舞っていることに気づく。

・・・食券だ。



「食券ぐらいで、よくここまでやるなあ・・・」




次に視線を彼らに戻すと、彼らはもうこちらに背を向けて走っている状態で。
赤い髪の人と、青い髪の日向君だけが、こちらを見ている。それに気づいて、私は後ろの立華に見えないように、小さく手を振る。





「あの赤い髪の人、新入りかなあ」
「みたい」
「そうかそうかあ、じゃあようやく、」


物語が、始まるのか。


そういって、は、満足そうに、笑う。





02. みつけた、世界の始まり。