くらい


何度この感覚を繰り返したのかそれすらも私は忘れてしまった。
硬いベッドに寝転がりながら、私は天井を仰ぐ。
後ろ手に繋がれた腕を動かせば、じゃらり、と鎖の音が反響する。ああいやだいやだ、狭いところはそんなに好きじゃないのに。
一方通行はどうしているだろうか。
木原に挑んだまでは良かったのだけれど、打ち止めを人質に取られた私は捕まるより他無かったのだ。残念ながら。
捕まって。
ぶっこまれた。
豚箱とどっちがマシなんだろうなあ。
退屈だなあ。

向こうはどうなったんだろう。
・・・なんて、言っているような場合ではないのかもしれないけれど。
武器は無く、両腕も拘束されている。足は片足だけが、ベッドの金具に繋がれている。片足だけだからといって動けるかと言ったらまったくそうでもない。この状態から暴れようものなら、逆に空回りして、自分が怪我する。

肩痛いなあ。

今まで何度か捕まったことはあるけれど、だからと言って、慣れるものでもない。
そうだな。
無理矢理犯されそうになるかしたら、自分で舌を噛み切ったほうがましだ。
銃を向けてきたら、状況に合わせてどうにかしよう。

ある程度の動きをシミュレートしていると、上の階が騒がしいことに気づく。牢屋の横に立っていた看守みたいな人がそっちに向かう。潰れる。「ぎゃハハハハハハハハハハハ!!」笑い声が聞こえる。



「・・・?」

息を殺して、様子を伺う。
かつんかつんかつん、と音がして、誰かがこちらへ向かってくるのがわかった。
誰かは。
すぐにわかった。


「・・・・・一通さん」


私は、思わず目を見開く。
違う。
この人は。
打ち止めと出会ってからの、彼じゃない。
そして多分、私と会ってからの、彼でもない。

血まみれだった。
髪が服が、顔が、手が。杖代わりにしているライフルですら、血まみれだった。
そして何より、目が、据わっていた。そんで、すこし、笑っていた。
違う。
彼は。


「いっつうさん」
「今出してやッからよォ、ちょっと待ってろ」
「鍵あるんですか。・・・ないなら、銃でやろうとすると跳弾しかねないので、銃のグリップでなんとかがんばってください」


聞いてない。
本格的にまずいことになった、と私は苦い顔をする。
反対側の壁に寄りかかった一通さんは、鍵に銃を向けて二発、撃つ。


「・・・そっちは撃つのやめてくださいね」
「・・・あァ、わかッてンよ」

なんとか手枷を外したかったけれど、周りにそれが出来そうなものも無くて、私は仕方なく外すことを諦めていると、一通さんがバッテリーの電源を入れたようで、私の目の前で手枷だけが、見事に砕け散った。
ちょっと痛む。
それを少しだけ見てから、一通さんが私を抱きしめてくる。

「お前は生きてたンだな」
「うん、とりあえず殺されなかったよ」
「殺されそうになったら俺に言え、俺が殺してやッから」
「どうしたのかな一通さん」
「なンでもねェよ」
「それはそうと、一通さん、血まみれすぎるよ」
「悪ィ」
「念のため聞くけど、怪我はしてないんだね?」
「あァ」

そう返事をした彼は私の手首が赤くなってるのを見たようで、片腕を静かに引き寄せて、 舐めた。
「ちょ、なにしてんの」
「消毒」
「しょ、しょうど、は?」
最後にわざと音を立てるようにキスをして、一方通行が手首から離れる。


「ねえ一通さん、人を殺すことについてどう思いますか」

そう私が聞くと、一通さんは少し押し黙って、「それは」、ここの、猟犬部隊のことか、と。聞いてくる。
きっと『敵なンだから、殺さなきゃなンねェだろォ』 そう返ってくると思って。それなら、まだ人間的な考えだからだ。
だけど。




「別に」




そう、言ってしまった。

何?      え?             まずい
                ヤバイ
   なんて
         何                 越えやがった

                 なんて、言った?
    一線を
                                           なに?
                              一線を、越えてしまった。

        ヤバイ


考えが錯綜する。



だめだ。

もう、どうにもならない。

一方通行から離れて、後ずさる。



「一方通行は----------」



彼は、いったい、





「なにを、みた?」





何が、一方通行を、完全に壊した?
まさか、と思って、私は、



「ねえ一方通行、」

「なンだ」










「打ち止めは、               死んだの?」


瞬間、一方通行の目が苦々しげに細められる。
死んだ。
打ち止めが、死んだ。死ぬはずの無い子が死んだ。 ということは、絶対に、私の知った奴が関わっている。
心当たりはある。------私の、父親とでもいうべき人間だ。
実の娘を人体実験に使いやがった人間。・・・しかも私のようにランダムではなく、行きたい世界に行けるとかいうおまけつき。
間違いなく魔女たちと通じてる。
悪魔の契約とか不老不死というものも、あの世界には存在したわけだし。


だからこれはつまり、未来が歪んだ方向に変わってしまったということ。
もうどうにもならないほどに歪んで歪んで歪んで-------もう、バッドエンドにしか行かない、物語。



「もうお前しかいねェから、俺はもうなンだろうがするつもりだ。」
「だったらいっそ、」



世界でも滅ぼしたら。



一方通行が私を見て、「それだとお前まで潰れンだろォが」そう言う。
そうだね、といって少し頬を緩める。一方通行は表情を変えない。・・・・考えてみたら最初から今まで、本当の意味では笑いもしないし怒りも、驚きもしない。
もう死んでしまったんだろう。
一方通行の人格は。

「ああでもちょっと待ってね-----ちょっと殴りたい奴が多分この先にいるからさ」
「あァ。・・・俺は木原を探す」
「うん、わかった。」


どうせ、この世界は、もうすぐ閉じる。

未来を変えてしまってごめんなさい。
こんな思いをさせてごめんなさい。
ごめんなさい、ごめんなさい。あの繰り返す世界にいた少女も、こう思っていたんだろうか。

彼にこの世界での最後の口付けをして、私は背を向ける。



「さよならだ、
そんな声が聞こえた気がした。


そうしてその後、例の暴走モードに入った彼の声が聞こえる。

もはや何を言っているのかも、私にはわからない。

私はただ、彼の最後の「愛してる」の言葉を思いながら、その辺に落ちていた銃を拾い上げる。



小路にちていく

(どうせまた、繰り返すの だから)(寄り道ぐらいは許していただきたいかな)





原作ストーリーが変わる法則
さん自身の存在が周りの人間に影響を与えること、(心因的意味)
行動的なものが周りに影響を与えること(外部的意味)
加えて、
さんのいた世界の人間がなんらかの形でさんたちに関わってきたとき。

そんな感じの設定になりました。たったいま。  リクエストありがとうございました!そそそ添え・・・添えてないね・・・!ヤンデレあはぎゃはがさんのほうに向くとヤンデレエンドっていうか夢主死亡エンドしか思いつかなかったので、これで・・・!